筑波大学ダイバーシティ・アクセシビリティ・キャリアセンター アクセシビリティ部門 2018年2月16日発行 Accessibility Newsletter 〜紹介:「障害者差別解消法」施行に伴う障害学生に関する紛争の防止・解決等事例集〜 第3号 平成30年2月 障害学生支援に関する紛争防止・解決の事例集  平成28年4月「障害者差別解消法」施行に伴い、今後、障害のある学生と大学との間で差別的取扱いや合理的配慮の不提供に関する相談や紛争の増加が予想されます。こうした背景から、独立行政法人日本学生支援機構は、全国の大学等に対して紛争に関する調査を実施し、『平成28年度 障害者差別解消法施行に伴う障害学生に関する紛争の防止・解決等事例集』を作成しています。事例集では、支援の場面(授業、実習等)や障害種別に事例がまとめられ、併せて事例に対する講評も掲載されています。今回は、講評で取り上げられた内容の一部をご紹介します。 ※今回の調査では、紛争事例は「合意形成の有無に関わらず、学校または外部機関等に不服、不満の申し立てがあった事例」と広義に位置付けされています。 紛争事例からみる大学等の主な課題(事例集p19-22) 講義や実習の本質的な目的の明確化  障害のある学生に提供する教育は、「教育の目標・内容・評価の本質は変えることなく、提供方法を柔軟に調整することにより、全ての学生が同等の条件下で学べるようにすること」が必要です。そのためには、教員(大学)と学生との間で建設的な対話を行い、調整をすることになります。そこでは、第一にその講義や実習の「本質的な目的」を明確にし、共有することが必要不可欠です。本質の部分が定義されず不明瞭なままでは、障害のある学生は、不明瞭な何らかの理由で排除されることになる場合もあります。以下に講評中に取り上げられていた2つの紛争・解決事例を紹介します。 ●事例1:紙資料のみしか用意されない古文書解読の講義 印刷された文字を読むことが難しい視覚障害の学生の参加が拒まれた ●事例2:補助者同伴が認めらない実験実習  両腕に麻痺があり一人では実験が行えない学生の参加が拒まれた 講義の本質的な目的な不明確な状態 [教員の考え] ●事例1の場合: 紙以外の古文書はないのだから、紙文書の内容を読み解くことが重要であり、紙を見て内容を読むことのできない学生は参加を認められない ●事例2: 技術者としての実験遂行能力を持っていることを資格認定される講義なので、その学生が自分で実験遂行できないならば、参加を認められない 建設的な対話のために…講義の本質的な目的を明確化 ●事例1の場合: ×古文書の紙面を見て文字を認識する ◎特殊な文法を踏まえて内容を読解し、古い単語を知識として知る ●事例2の場合: ×実験を自らの四肢で行なう ◎実験の手続きや勘所を詳細かつ適切に理解して、補助者に指示して求める実験の技術的手続きを遂行できる 本質的な目的を達成するための調整・合意形成 ●事例1の場合: 書かれている文字をテキストデータとして書きだしたものを音声読み上げで聞いて学び、レポート作成や試験へ解答する参加方法も認める ●事例2の場合: 障害のある学生が補助者を適切に指示して実験を行なうことで、単位や資格の取得を認めることも可能 ポイント:シラバスに授業目標、内容、評価方法を明記することは、学生の授業選択の手がかりとなり、支援の必要性を事前に検討する上でも重要な情報となります。 出典:日本学生支援機構 『平成28年度 「障害者差別解消法」施行に伴う障害学生に関する紛争の防止・解決等事 例集』  http://www.jasso.go.jp/gakusei/tokubetsu_shien/chosa_kenkyu/kaiketsu/index.html (2018年1月5日閲覧) 平成30年度新入障害学生ガイダンスの開催  本学では、例年多くの障害のある学生が入学しており、すでに各教育組織では次年度に向けた準備を進めていることと存じます。  当部門では、来る4月3日に新入障害学生ガイダンスを実施します。新入障害学生全体を対象に、本センターの紹介および支援利用の流れ等の説明を行うと同時に、共通科目に関する支援についての個別面談を実施します。 平成30年度新学期に向けて教育組織の教職員のみなさまへお願い  当部門では、自由科目「障害学生支援技術」を開設し、筑波大学の障害学生を支援するピア・チューター( 有償ボランティア)を養成しています。 【ピア・チューターが担う支援の例】 視覚障害 :テキストデータ化、対面朗読 聴覚障害:PC要約筆記、映像教材文字おこし 運動障害:ノートテイク/代筆、移動支援  大学の専門的な講義等における支援は、非常に高度な作業であり、支援を必要とする障害学生とピア・チューターが近い専攻であることが望ましいです。しかし、人材の不足により、専攻が全く異なる学生でも派遣せざるを得ない状況です。特に理系の学生が不足しています。ひとりでも多くの学生に本取り組みを知っていただき、活動に参加していただければと考えております。そこで、4月末に行われる障害学生支援技術オリエンテーションの前に、いくつかの授業を選んで授業宣伝に伺います。皆様のご担当科目が選ばれた際には、ご理解とご協力をよろしくお願いいたします。 障害学生のキャリア・就職支援について  アクセシビリティ部門では、障害学生の修学支援のみならず、卒業後を意識したキャリア・就職支援にも積極的に取り組んでいます。開学以来多くの障害学生を受け入れ、障害種別問わずさまざまな支援体制の構築を行っています。その中で2006年度より障害学生の進路情報(下表参照)を蓄積しており、本学の特徴にあった障害学生のキャリア・就職支援に役立てています。障害学生の就職先の内訳ですが、企業、教員、公務員、研究員等多岐にわたり、卒業後も社会の第一線で活躍しています。  支援内容としては、個々のニーズに合わせた個別キャリア・就職相談を中心に、インターンシップの活用促進、就職ガイダンスやキャリアセミナーの開催等を行っています。また、卒業生の存在は大学としても貴重な財産であると考え、在学生と卒業生とのネットワーク構築にも注力しており、卒業生を招いての交流会等の開催しています。このような支援を通して、障害学生一人ひとりが自分の強みを活かし納得のいく進路選択ができるよう支援を心掛けています。  さらに昨今発達障害のある学生のキャリア・就職支援も喫緊の課題となっており、「発達障害支援プロジェクト(RADD)」とも連携しながら支援プログラムの提供を行っています。 障害学生の進路(2006年度〜2015年度)      学群  大学院  計  備考 就職   22人  51人  73人  職場復帰を含む 進学   41人  10人  51人  後期課程・他大学への進学を含む 就職準備 6人   8人   14人 進学準備 1人   2人   3人 その他  2人   3人   5人   帰国・科目履修生・不明 計    72人  74人  146人 ※アクセシビリティ部門に登録のある学生を対象としている。 卒業生からの便り(一通目) 東京都消防庁 防災部 防災安全課 地域防災係 原市 紘奈  私は平成29年3月に筑波大学人間学群障害科学類を卒業し、同年4月から東京消防庁防災部防災安全課で働いています。防災館のイベントの企画立案など、都民の方々の防災意識や防災行動力の向上のために尽力しています。さらに、防災館のインストラクターへの社会福祉学の知見を活かした研修や、学生時代に手話サークルで学んだ手話による様々な都民の方とのコミュニケーション、車椅子ユーザーの視点を活かした消防車両への意見具申など、学生時代の経験も生かされています。  また、所属の深い理解と多大なサポートにより、車椅子バスケの練習を週に4、5日行っており、日々競技力の向上を実感しています。  将来的には災害時に支援が必要な方々の安全対策に係る業務に携わり、大学で学んだ専門知識をさらに活かしたいと考えています。車椅子バスケでは日本代表を目指し、努力し続けていきたいと考えています。 (編集者) 原市さんは東京消防庁では初めての車椅子ユーザーの職員として採用されました。 今後もこのように本学で学んだ障害学生の卒業後の活躍ぶりをお届けします。 ■紹介 2018年度DACセンター企画 新科目(自由科目・特設) 障害者スポーツボランティア実践講座2018 Practical course for disability sport volunteers   2019国体・全国障害者スポーツ大会(茨城)、2020東京オリンピック・パラリンピック、筑波大学の学生もボランティアとして関わることのできる大きな大会が開催され、障害のある観客・選手にも対応できるボランティアが社会的に求められています。 そこで、DACセンターでは、障害者スポーツボランティアや障害者支援などを通して、生涯にわたり共生社会の形成に積極的に関わることのできる人材を養成することを目的とした科目を開設します! 【担当教員】  竹田一則・齊藤まゆみ・名川勝・松原豊・原島恒夫・小林秀之・末富真弓 【授業形態】  講義及び演習 【概要】 ボランティアとして必要な障害者の理解・障害者スポーツに関する内容と、障害者に対応するコミュニケーション支援・移動支援の方法を学びます。 【到達目標】 障害者スポーツや各種障害の支援方法(移動支援、コミュニケーション支援)に関する基本的な知識を修得し、理解を深める。 【備考】 本授業履修後、希望者はスポーツボランティア・リーダー養成研修会(日本スポーツボランティアネットワーク)に参加し、資格を取得することができます。