Accessibility Newsletter 第2号 平成28年11月 多様な学生の修学とユニバーサルデザイン バリアフリーからユニバーサルデザイン  平成27年度日本学生支援機構の調査によれば、少子化の中にあっても、高 等教育機関における障害学生の在籍者数ならびにその割合は年々増加してい ることが明らかとされています。今後も多様な学生が本学で修学することを 考えると、合理的配慮とあわせて、障害の有無にかかわらず、どの学生も同 様に修学の機会が与えられるよう、ユニバーサルな学びの機会を提供する必 要があります。そのための一例として、本号ではユニバーサルデザインの考 え方の一部をご紹介します。 (1)ハード面のユニバーサルデザイン(Universal Design; UD)  ロナルド・メイス博士によって「ユニバーサルデザイン」が提唱され、日 本を含めた世界中の多くの企業や国、地方公共団体等で広く用いられていま す。これは下表のような7つの原則にしたがっています。 ユニバーサルデザインの7原則 1. 公平性:公平に利用できること 2. 自由度:使用する際に自由度が高いこと 3. 単純さ:使い方が簡単で直感的にわかること 4. 明快さ:必要な情報が理解しやすいこと 5. 安全性:ミスや危険につながりにくいこと 6. 効率性:身体的な負担が少なく、楽に使用できること 7. スペースの確保:アクセスしやすいスペースや大きさが確保されていること (2)学びのユニバーサルデザイン(Universal Design for Learning; UDL)  実際の修学にあたっては、授業や事務窓口等でも実践可能な「学びのユニ バーサルデザイン」も広がりを見せています。基本的には、様々なオプショ ンを用意することで、様々な学生が学習にアクセスできるようにするという 考え方です。多様な学生の修学について、一緒に考えてみませんか? UDLの図 ・行動と表出に関する多様な方法を提供 - 表現方法のユニバーサル・デザイン化 * 発表の際に複数の方法を認める * 多様な回答方法を認める - 例えば... * 発表課題の際、みんなの前で発表、skypeを通じてオンラインで発表など、いくつかの方法から選択できる * レポート作成や試験時に全員がPC回答、あるいは筆記回答のうち好きな方を選べる ・教材提示のための様々な方法を提供 - 提示方法のユニバーサル・デザイン化 * 同じ情報を異なる複数の方法で伝える(文字や音声など) * 情報を利用者が自分にあわせて文字の拡大や音量の調節ができる ・取り組みに関する多様な方法を提供 - 取り組み方のユニバーサル・デザイン化 * 活動手順やスケジュールを示して、あらかじめ予測したり、準備できるように予告する一方で、新奇な内容も取り組む * 必要に応じてタイムアウト(退室)できるようにする 障害学生のための防災ワークのご案内  大規模災害発生時に障害学生の避難経路や避難誘導方法は確認できていますか? 例えば、エレベーターが停止して使用できなくなった時、車イスを利用する学生はどのように避難すればよいでしょうか。 電動車イスはバッテリーを搭載していることもあり、重量が重く、持ち上げて避難することが難しい場合があります。 また、簡易車イスについては、数人で持ち上げて階段を昇降することはできますが、緊急時の混雑状況において、慣れない方法を取ることは危険を伴います。 それでは、安全で確実に誰でも対応できる避難方法とはどのようなものでしょうか? アクセシビリティ部門では、大規模災害発生時を想定して、毎年、教職員を対象に防災ワークを実施しています。 具体的な実践ワークとなっておりますので、教職員の皆様はどうぞご参加ください。  日時:11月18日(金)  場所:第二エリア2B412ほか  時間:14:00 ~ 15:30  対象:人間エリア及び生命環境エリアの教職員、全学の参加可能な学生・教職員 ※準備の都合上、可能な限り、事前にお申し込みをお願いします。お申し込みはアクセシビリティ部門までお願いします。 平成28年度 第2回 障害学生支援懇談会のご案内  アクセシビリティ部門では、毎年7月と2月に障害学生支援懇談会を開催しております。 毎年、多数の教職員の皆様にご参加いただき、アクセシビリティ部門での活動についてのご報告や、 各組織でのお取り組みの発表や困り事のご相談等、組織を超えた情報共有の場として、ご利用いただいております。 教職員の皆様には、1月上旬までに日時等を改めてご連絡いたしますので、ぜひご参加ください。 シリーズ:発達障害学生の理解と支援B 限局性学習症(SLD)の学生の支援  前号では発達障害のひとつである「注意欠如・多動性障害(ADHD)」の障 害特性と修学上の困難さを紹介しました。今号では同じく発達障害のひとつで ある「限局性学習症(Specific Learning Disorder : SLD)」の特徴と、SLDのあ る学生がどのようなことに困っているのかをご紹介したいと思います。 限局性学習症(SLD)とは  従来は学習障害と呼ばれていましたが、診断基準の改定により限局性学習症 (SLD)に名称変更されました。SLDの基本的な症状は次の3つです。 ・読みの困難:文章のどこを読んでいるのか分からなくなる 等 ・書きの困難:板書を書き写せない、書くのに時間がかかる 等 ・算数、推論の困難:基本的な数字や記号、図表やグラフが読み取れない 等  それぞれの困難さは、いずれか1つだけある人もいれば、複数の困難さをも つ人も多くいます(読み書き障害など)。今までの大学生活では、ただ単純に 成績不振の学生として扱われている場合もあり、多くの学生がSLDであると認 識されずに見逃されているのではないかと言われております。 SLDの学生の困り感  SLDの学生が大学での生活でどのようなことに困っているのでしょうか。こ こでは2つの仮想事例を通じて、具体的な困り感と、それを補う方法の例を紹 介いたします。 事例@:授業中にノートを取れないことが多い。記述式の試験問題に取り組ませると、短い文章であったり、綴りを間違えていることが多い。  文字の読みや書きが苦手なSLDの学生の中には、日常会話は普通にできる にも関わらず、ひらがななど簡単な文字でさえも読み上げることや書き写す ことが苦手な人がいます。特に記述式の試験問題やレポートでは、自分の意 見は頭の中で思い浮かんでいるにも関わらず、”書時”を求められることで、書 くのに時間がかかってしまい、決まった試験時間の中では完成度が低い内容 として評価されてしまうこともあります。  SLDの学生には、パソコンで授業の内容を打ち込むことや、授業内容の録 音を許可することで授業に追いつける学生もいます。試験時にもパソコンを 使った回答を許可することで高いパフォーマンスを発揮することもあります。 これらの配慮はSLDの学生のみならず、他の学生にもあると良いでしょう。 事例A:読み書きは苦手な学生だが、不注意さやこだわりもあり、どのように接したら良いのか分からないことがある。  SLDは自閉症スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動性障害(ADHD)な どの他の発達障害と合併することもあります。基本的には、「読み書きの苦 手さ」「不注意さ」「こだわり」に対してそれぞれ配慮する必要があります。  学生に接する際に対応に困る場合は、まずは総合相談窓口や保健管理セン ター、アクセシビリティ部門等の活用を検討してみましょう。  【活動報告】平成27年度発達障害学生支援プロジェクト活動報告  発達障害学生支援プロジェクトでは、4年間のプロ ジェクトの1年目を終えて、2年目に入っております。  このたび、1年目(平成27年度)の主な活動状況を 以下の通り、ご報告させていただきます。 【1】国内外の支援事例や論文のレビュー・先駆的事例の視察について ・月に1回程度、発達障害学生への修学支援に関する学 内勉強会を開催し、関係者で情報共有を行うとともに、 課題の整理のための議論を継続的に行いました。 ・障害学生支援に関する先駆的な取り組みを行っている オーストラリアのメルボルン大学・モナッシュ大学・シ ドニー工科大学・シドニー大学を視察して、情報収集と 日本における支援体制の構築に向けた意見交換を行いました。 【2】スクリーニングと適切なアセスメントについて ・本学における支援事例の分析を進め、効果的と考えら れるスクリーニング質問紙、心理検査および認知機能評 価の組み合わせを検討しました。 ・標準化されたアセスメント・ツールでは把握できない、 本人のニーズ、生育歴、教育歴、その他関連する環境設 定に関する情報を効果的に収集・整理する方法を検討し ました。 【3】公正・公平な評価方法について ・学生に対する配慮内容を検討するためのテスティング ルームの環境整備を行い、パイロットスタディの実施案 を検討しました。 ・オーストラリアの先駆的事例の視察を受けて、合理的 配慮を決定する際に参照する学科や科目の到達基準であ るInherent Requirementに関するレビュー研究を開始し、 予備的な分析を行いました。 【4】個々の学生に応じた修学支援について ・学内における発達障害学生の支援事例の分析に進め、 これまでに実施されてきた支援のプロセスならびに具体 的方法について後方視的な整理・分析に着手しました。 ・キャリアサポート部門ならびに発達障害者の就職支援 を行う株式会社Kaienと連携し、発達障害学生を対象と した「就職活動準備講座プログラム」を開発、試行的に 実施しました。 ダイバーシティ・アクセシビリティ・キャリアセンター アクセシビリティ部門 場所:スチューデントプラザ2階(受付対応事務) 開室時間:9:00 ~ 12:15, 13:15 ~ 17:15 TEL/FAX : 029-853-4584(内線4584) E-mail : shogai-shien@un.tsukuba.ac.jp URL : https://www.human.tsukuba.ac.jp/shien/